ファッションウィークの華やかなランウェイが終わり、きらびやかなセレブリティたちが去った翌日、本当の「戦場」が始まります。それが「Re-see(リシー)」と呼ばれる、選ばれたバイヤーとトッププレスだけが招待されるクローズドな展示会です。
華麗なモデルが歩くショーの数分間では、服の本当の姿は分かりません。Re-seeの会場に一歩足を踏み目を向けると、そこには音楽もランウェイもなく、白いラックに今季のコレクションが整然と並んでいます。私たちバイヤーが最初に行うのは、服の「裏側」をひっくり返すことです。裏地の縫製、仕立て、そして素材の混率。シャネルやエルメスといったトップメゾンであっても、ランウェイ用のサンプルと量産品では仕様が変わることがあるため、ミリ単位のチェックが欠かせません。
ここでバイヤーの腕の見せ所となるのが、トレンドをそのまま買い付けるのではなく、「自分の顧客が本当に着られるか」というリアルな視点です。例えば、ランウェイで絶賛された超オーバーサイズのジャケット。デザインは最高ですが、アジア人の体型に合わせたときに袖丈や肩幅がどう崩れるか、あるいは日本の高温多湿な気候でそのヘビーなウールが売れるのか。私たちは現場で実際にモデルに試着させ、ディテールを修正する「モディファイ」の交渉をブランド側と行います。
さらに、Re-seeの最大の目的は、ショーには登場しなかった「コマーシャル・ライン(商業ライン)」の買い付けにあります。実は、ブランドの売り上げの7割以上を支えるのは、ランウェイに出てこないベーシックで使いやすいアイテムや、アイコンバッグの新色・新素材です。華やかなトレンドで大衆の目を引きつけ、実用的なコマーシャルラインで確実に利益を上げる。このメゾンの巧妙なビジネス構造を見抜き、どれだけエッジの効いた「攻めの1着」と、確実に売れる「守りの9着」を組み合わせられるか。このバランス感覚こそが、プロのバイヤーの存在価値なのです。
きらびやかな世界に見えて、その実態は電卓を叩き、素材の耐久性を疑い、限られた予算(OTB)を奪い合う、極めて泥臭いビジネスの現場。それがRe-seeという、ラグジュアリーの裏舞台です。